味つづり〈114〉 倉橋 柏山
伽羅蕗(きゃらぶき)「伽羅蕗の滅法辛きお寺かな」川端芧舎。
句に詠まれるごとく、滅法辛い伽羅蕗が好きで毎年、この季節になると煮る。
フキは日本原産の数少ない野菜のひとつで、もとは山野に自生する野草で、今日でも至る所で目にすることができる。
わが国の野菜の中でも、ごぼうと共に栽培の歴史がもっとも古い、キク科の多年草。
大型の秋田フキは、葉柄の長さが2メートル。葉の幅1メートル以上と、傘になるほど大きいフキがあるが、知人によると、北海道のフキは秋田フキより大きいそうである。
フキはもともと野生のものを山菜として食用されたものであるが、われわれの先祖が、茎が柔らかく、葉の成長したものを選び出して各地で栽培され、さらに品種改良されたもので、愛知早生フキ、水ブキ、秋田フキと、品種はあまり多くないと、物の本に書かれている。
伽羅蕗には、山野に自生する細めのフキが香りも良く味も良い。
葉を取り除き、水洗いして半日ほど陰干しにして、しんなりしたら4~5センチに切り、鍋に醤油とみりんを加え、フキを入れて弱火でゆっくりと汁気がなくなるまで煮詰める。最後に赤唐辛子または七味唐辛子を加えて味の仕上げをする。
私は1㎏のフキに対し、濃口醤油300㏄、酒200㏄を目安で煮含め、最後に赤唐辛子3本、みりん大さじ4杯ほどで仕上げている。彩りに白の煎り胡麻を振りかけ、炊き立ての温かいご飯で食べるのが好きである。
ざっくり切ってにぎりめしに加え、表面をこんがり焼いて茶漬けにするのも、酒の後はよろしいものである。1~2本ずつつまみ、人肌の燗酒のあてにしてもいい。
茎を伽羅蕗にすると、葉が残る。これを捨てる手はない。佃煮という旨い食べ方がある。
塩を加えた熱湯で葉を茹でて水にさらす。野生のものはアクが強いので2~3回水を取り替えて半日ほどさらしてアク抜きする。アクも味なりで、アクを抜きすぎても良くない。自分好みでほどほどに抜く。細かく刻んで水気をしぼって鍋に入れ、醤油とみりん、かつおの削り節と赤唐辛子を加えて汁気が無くなるまで煮含める。砂糖は加えないが、みりんを少なくして酒を加え、砂糖を適宜加えてもいいのではないだろうか。
伽羅蕗の由来は、「伽羅の香木」に色合いが似ていることから名づけられたそうである。
キク科の多年草に「石蕗(つわぶき)」という主に暖地の海辺に自生し、蕗に似て、葉は長柄を持ち、厚く光沢があり、初冬に黄色い頭上花を房状に付けて美しいので観賞用に庭にも植栽され、茎は食用になり、石蕗の伽羅煮が最も旨いとする人もいる。
蕗の刺身。新鮮な蕗の皮をむき、氷水に浸し、水気を切って4センチほどに切りそろえて器に盛り、辛子酢味噌で食べる味は、香りと歯ざわりが楽しく、初夏の野生味である。
太めの蕗をまな板に乗せ、粗塩で板ずりして、固茹でにして水に取り、皮をむいて水気を切る。
蕗500gに対し、砂糖250g、水200㏄を鍋に入れて火にかけ、砂糖が溶けたら蕗を加え、落しぶたをして弱火で煮る。煮汁の泡が小さくなってきて、砂糖液が白っぽく固まりかけてきたら、液を蕗にからめてざるに並べて冷ます。秋田フキの砂糖漬けには及ばないが、野蕗の砂糖漬けが楽しめる。
蕗の苦みと芳雪は食欲増進と健胃作用があり、せきを鎮める効果もあるそうだ。蕗には繊維質が多く含まれているので、腸の働きを活発にして、便秘を解消する効果もあるので、この時期塩漬けなどにして保存し、多食といっても主菜ではなく副菜として食膳にのせたいものである。