味つづり〈108〉 倉橋 柏山
    秋味と呼ばれる鮭

 今年は秋刀魚が高騰で、ちょっと手が出しにくいようである。
 食の嗜好はどの位の周期で変わるものなのか、少し古い統計であるが、総務省の家計調査によると、平成元年(一九八九)の国内の生鮮魚介類の一人当たりの購入量は、イカ、エビ、マグロ、アジ、サンマ、ブリ、そしてサケの順番。それが、令和二年、サケが一番人気だそうだ。
 北海道から九州まで、生食用「ご当地サーモン」の養殖が盛んで、生食としての刺身をはじめ、切身そして調理が簡単で、小骨が気にならない。和・洋・中といずれの調理にも適し、しかも旨いからであろう。
 新型コロナウイルスで、料理店をはじめ家庭における食の形態も様変わりしている。
 これから寒さに向かって鍋物が喜ばれるが、小鍋で個々に食べる。大鍋からじか箸や取り分けレンゲはつつしむべしと、専門家の言である。
 母川回帰の鮭は、三〜五年海で大きく育ち生まれた故郷の川に向かって一心不乱にもどってくる。子孫を残すために子を産むと、鮭の一生は終わる。
 石狩川河口の番屋料理という野趣に富んだ石狩鍋を知人の店でご馳走になったことがあるが、実に豪快で食べごたえがあった。
 魚に限らず材料は鮮度の良いものを求めることである。鮭は骨付きをぶつ切りにする。こんにゃく、大根、人参、豆腐、葱、白菜、ほうれん草など、食べ良く切って、昆布を敷いた鍋に彩りよく盛る。赤味噌と白味噌を七三位の割合に、砂糖、みりん、酒、醤油各適宜に加えてよく混ぜ、鍋ぶちに土手の如くぬりつけ、昆布だし汁を注いで火にかける。煮立ったら味噌を少しずつ溶き入れる。これに白子かすじ子が入ると一段と味が倍加する。このような食べ方は大鍋に限る。薬味は、七味唐辛子、粉山椒、柚子こしょう。最後はおじやか、うどんであろう。
 三平汁という北海道の郷土料理も旨い。松前藩士の斎藤三平が考案したから三平汁。有田焼きの浅い三平という皿に盛った説。アイヌ語の転訛説と、由来は諸説あり、最初は鯟の麹漬けを用いたなどと、これも諸説あるが、私は鮭とじゃがいもが不可欠と思っている。
 にしんを用いるなら、生より、塩にしんである。鮭も生より、淡塩の物が良い。じゃがいもは皮をむいて、乱切りにして少し水にさらす。鮭は一口大に切る。あとは、大根、人参、こんにゃく、ごぼう、葱をそれぞれ食べ良く切り、昆布だしか、かつおだしを注ぎ、酒と塩と醤油で調味してくつくつと煮込む。じゃがいもがほっくり崩れる寸前まで火を通す。素朴ながら寒いときのご馳走である。
 イクラを飾った鮭めしという旨い食べ方もある。甘塩の鮭はサイコロ状に切る。人参、椎茸、ごぼうは細切りにする。炊飯器に洗米を入れて水加減する。酒、塩、醤油で調味し、材料と昆布を加えて炊き上げ、刻み三つ葉を散らし、ぱらぱらともみ海苔を振り、イクラをたっぷりのせる。彩りも良く、絶品の味である。器に1/3ほど残し、おろし山葵で茶漬けにしても旨い。
 親子焼き、生鮭の切り身に塩、こしょうを振り、小麦粉をまぶしてバターで焼き上げて皿に盛り、マヨネーズにおろし山葵と醤油少々を混ぜ、焼き上げた鮭に塗り、イクラをのせる。粉吹き芋とクレソン、レモンを添える。和洋折衷だが、若い方は喜ぶ。八十三を過ぎても私は好きだから、老若男女問わないだろう。
 生鮭に塩と酒をふって一時間ほど味をなじませて焼き、生うにをたっぷりのせて軽く火を通し、淡口醤油を二三滴落とす。従兄弟焼きならぬ、他人焼きとしゃれてみた。旨い生食用もあるので、刺身、すし、酢の物、蒸し物、揚物と、料理万能の素材が鮭である。