味つづり〈106〉 倉橋 柏山
    紫 薇(ぜんまい)

 「ぜんまい」は、日本固有の山菜で、昔から乾燥させて保存食にしたり、備荒食品として用いられてきた。
 日本各地の山地にみられ、繁殖力旺盛な「シダ科」の多年草。
 縦長の日本列島、季節の寒暖や高低地によって採取期は異なるが、四月〜七月、渦巻き状の若芽と茎を食用にする。重曹や灰汁を用いて生を食用にもするが、アクが強いので多くは湯通しして乾燥させる。乾燥には二種あり、青松葉で燻蒸した火力乾燥を「青干し」。湯通して天日で手もみして乾燥させたものを「赤干し」。若芽の胞子葉が拳状に丸く渦巻くことから和名を「銭巻」と言うそうだ。
 ぜんまいには薬効があるそうで、昔は民間薬として、神経痛・脚気・水腫・りん疾・腹痛に用いたそうである。
乾燥品は、さっと洗って汚れなどを取り除いて水に漬けてもどす。もどし方は、乾燥状態にもよるが、水を取り替えながら二〜三日が目安。
 急ぐときは重曹か灰汁を加えて三時間ほど弱火で茹で、充分に水洗いして用いる。
 私は栃木の山奥育ちで、晩春のぜんまいやわらび採りは楽しみの一つであった。
 子どもの頃の懐かしい食べ方に、ぜんまいの筍めしがある。
 田舎者で食べ方を知らなかったのか、はたまた上手なアク抜きができなかったのか、ぜんまいを生で食べた記憶はない。
 茹でた筍(孟宗竹・真竹のいずれか)を食べよく切り、もどしたぜんまいと一緒に油で炒め、甘辛く煮染めて、炊きあがったご飯に混ぜ、木の芽を振りかける。普段は麦めしに味噌汁、漬物という粗末な食事には、大変なご馳走であった。
 田んぼと畑の他は、まわりは山で、山菜は豊富であったが、今、振り返ってみると、食べ方を知らなかったのであろう、いろんな山菜や野草を食べずにいたのはもったいないことである。
 新潟・高知・長野・徳島の各県では栽培もされているそうだ。栽培品は商品であるから、形や大きさなどが揃っているが、自然のものは大小さまざまで、一株から十本前後、丸く巻き込んだ若芽は目にするだけでも楽しいものである。
 ぜんまいは干し方も異なるせいか、もどし方にもいろいろある。ふっくらともどさないと、細くやせて歯ざわりも硬くて旨くない。
 福島のほうで干し方は見せてもらったことがある。湯通したぜんまいをむしろに広げ、生干し状態を何度も手もみしてカラカラに乾燥させるそうだ。水煮や塩漬けなど保存方法も地方によって異なるようである。
 岩手県の湯田地方には、ぜんまいの一本煮という、冠婚葬祭には不可欠な料理がある。
 もどしたぜんまいを数本束ねて、雑魚だしでじっくり煮含めて切り分けて器に盛る。
 油揚げ、人参、もどし干椎茸をそれぞれ細切りにし、食べ良く切ったもどしぜんまいと一緒に胡麻油で炒め、甘辛煮は、山菜の王様にふさわしい素朴な食べ方で、最もぜんまいに叶った田舎料理である。
 裏ごし豆腐に擂り胡麻を加えた白和えも旨い食べ方である。
 豆腐も木綿と絹ごしがあるが、私は田舎者ゆえ、木綿を好む。
 胡麻の代わりにくるみ、ピーナッツなども相性である。若い方にはマヨネーズやクリームチーズなどを豆腐に加えてもいいだろう。
 辛子酢味噌のぬたという食べ方もある。
 和物は時間がたつと水っぽくなるので、食べる直前に和えることである。私は包丁を握って六十五年になる。調味料の分量を書くのは苦にならないが、食べ物は各自味の好みが異なる。自分の好きな味、家族が喜ぶ味、客の好みを知ることである。材料はケチらず、良いものを求めることにつきる。

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